デジタル・ジャングル 大学受験 相手の意図をちゃんと理解しましょう~2022年度東大入試(古文)を例にとって

相手の意図をちゃんと理解しましょう~2022年度東大入試(古文)を例にとって

今更何を・・・

 多くの人々が「こんな当たり前のことを何を今更改めて言ってるのだろう」と思うことでしょう。

 実際、こんな事を書かなくてはいけないかな、と今も少し思っています。

 けれど書いたのにはやっぱりそれなりに理由があるのです。

 試験の本番に出題者の意図を理解出来ているのにも拘わらず、敢えてそれとは違う回答をしてしまうことがあるのです。

 なぜか?

 マニュアルのせいです。

 勉強を通じてマスターしたマニュアルがあって、やっぱりそれに対する愛着なり信頼ってのがある訳ですが、そのせいで結局出題者の意図とは違う答案を書いてしまうってことがあるのですね。

 これは社会に出て仕事をする場合なんかにもあり得る話です。この場合は、マニュアル通りやっていれば自分の責任は問われないという組織文化における馴れ合いが背景にあり、入試の場合とはちょっと違いますが、マニュアルに過度に依存してしまうという点では同じです。

 大学入試の場合は、責任は全部自分にかえってきます、合否という形で。だからマニュアルも大事ですが、余りそこに拘泥することなく、問題文をよく読んだ上で、自分の頭を使ってベストの答案を書いて下さい

具体例~マニュアルは飽くまで参考資料

 掲載している文字列は2022年の東大入試国語(古文)の解答速報の一部を集めたものです。古文の小問(二)に関する答案例ですね。ちなみに作成者は三つの大手予備校。恐らくそこで模擬試験の採点者とか問題作成者として勤務している大学院生とかが作成した答案例だと思います

東大古文(2022)悪しき予備校答案_page-0001

 問題文は以下のようなものです。

(二)「ただまぼろしに見るは見るかは」(傍線部イ)の大意を示せ。

ちなみに、解答欄は1行。という事は30字から35字程度でまとめなければならないと考えられるので、かなり頭を使う作業です。況してや本文は「浜松中納言物語」、そこまでメジャーではないもののそこそこ名前は知られてはいるものの、話のあらすじまで知っている受験生はほぼ皆無と言って良いでしょう。

 つまりは事前に持っている情報も含めて、受験生の間で横一線フラットな状態です。

 となると、どこで差が出るか?

 まずは「大意を示せ」とあるが、「大意」と言う言葉の意味をちゃんと分かった上で答案作成できるか。ちなみに「大意」というのは「大まかな意味」であって現代語訳ではありません、当たり前の話ですが。

 次に、これは当たり前の話ですが、本文のテーマをちゃんと理解出来ていること。

 最後に註釈の情報を活用できているか(これに関しては加点事由に止まる場合もあり)

 一番左のものは辛うじて日本語としての意味が分かりますが、残る二つはどうでしょう?何だか禅問答をやっているように感じませんか?そうでなければ、恋愛関係にあったとして恋人にこんなことを言われたとして、自分ならどう思いますか?「随分酷い事を言うなぁ、醒めちゃうよ」って思うんじゃないですかね?

 「試験の答案作成の話をしているのだから、そんな恋愛云々の話をするな」ってお叱りもあるかもしれませんが、恋愛こそがここでのテーマだから仕方ありません(詳細は本文を読んで下さい)。

 これらの答案、果たして出題者の意図を理解出来ていると言えますか?「大まかな意味を理解している」とのアピールが出来ていると思いますか?本文のテーマを理解出来ているように見えますか?

 恐らく、これらの答案の作成者は「現代語訳をせよ」の延長で「大意を示せ」と認識したのだと思います。けれども、現代語訳と大意を示すことは違います。現代語訳をせよというのならあるいはこれらの答案は正解でしょうが、それでは日本語としての意味は明確には分かりません。だから大意を示すことを要求したのです。

 けれども、そういうことを分かっていないー少なくとも私共にはそのように思えます。

 それならばまだこちらに掲載の答案例の方が遥かに良い、合格点に達すると思われます。

 ちなみに、この本文の場面設定に関しては本文の前の誘導部分に書かれていましたが、掻い摘まんで言うと「父が中国の皇帝の皇子に転生した事を知った主人公は渡航し、彼の地で転成した父を産んだ后と恋愛関係になり子を成したが、やがて本国に戻ることになった。以下はその別れの場面」というようなものでした。

 とするならば、ここから以下のことが分かります。

 ・主人公の恋愛対象は皇帝の后

 ・皇帝の后との恋愛は不義密通として処罰対象、子どもまで出来たなら尚更(『源氏 

 物語』を踏まえて考えると当たり前に行き着く価値観)

 ・幸か不幸か今は別れの場面、まだ誰にも露見していない

 で、この台詞。

 とするなら、

 「あなたとの関係は不義密通の大罪なので、この別れを限りに清算しよう。

 と言うのが、少なくとも私共が考える、出題者が最も欲しい回答ではないかということになります(実際、飽くまでtwitterで調べた限りですが、文系の合格者の中で得点率が50%以上であった受験生の割合はかなり少なかったと記憶しています)。

 こういうのを大人の世界では「現場思考」とか「状況判断」というのですが、恐らくどの科目でもそういう能力がそこはかとなく要求されているはずです。

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