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高校授業料完全無償化に関する一考察

違憲立法じゃないの?

 余り政治の話はしないと決めていましたが、仕事にちょっと関連する事柄でもあり、あるいは死活問題になるのではないかと思ったので、敢えてお話しします。

 個人的には国民民主党の玉木代表とれいわ新撰組の山本太郎氏には注目しています、久しぶりに数字と理屈で説得的に物事を話せる政治家が出て来たと思うからです。これであと、社会全体を俯瞰する戦略眼が見られれば大政治家かな、と些か期待しなくもありません(と偉そうにコメント)。

 

 今回お話しするのはこの二人に関することではなく、別の話柄、高校授業料完全無償化です。

 確か、年間授業料63万円までをパブリックセクターが負担し、それ以上の分に関しては私立高校側が負担するという内容だったと思います。

 

 一見口当たりの良い話でもあり、「授業料がタダって素晴しいじゃん!やろうぜ!!」って思われがちだと思います。

 まず、どれだけ教育事業が公共的な目的を帯びる事業であっても、所詮商売である事から、運営母体である私立高校・学校法人は憲法22条1項から導かれる営業の自由に関する保障を受けるはずです。

 いきなり憲法の話が出て来て大上段に構えているように思われますが、要するに「誰を雇ってどこで商売するか」とか「財やサービスをいくらで売るか」は事業主の自由ということです

 とするならば、この話は後者の問題、すなわち事業主が掌握するはずの価格決定権に政府(この場合は文科省とか教育委員会)が嘴を挟むと言うことです。

 学校運営を営利活動と位置付けるならば、表現の自由なんかと異なってそれも許されるじゃないかって話も成り立つかもしれませんが、教育が個人の人格的自律性の涵養という(要するに「テメエのケツをテメエで拭けるように躾けること」です)精神的自由権に係る営為である事から、故意は勿論、過失に過ぎなくとも軽々に価格決定権も含めて学校法人の運営に公的機関が介入することは慎むべきであると言うべきでしょう。

 仮に「私立学校にも公立学校並みの公共性を」というのが立法の趣旨であるのならばお門違いです。公立学校と私立学校の運営主体は異なります。すなわち公立学校は自治体であるので教育内容に無色(中立)性が要求されるのに対し、私立学校は私人が運営主体である以上国家の要求する水準なり内容と両立出来る限りにおいて個性が許容されるはずです。

 

 あるいは「教育機関の充実を」というのならば、それこそまず公立学校の教育のあり方を充実させるべきです。

 尤も、大前提として高校はそもそも義務教育外であることを考えるならば、そもそもこのような介入が許されるのか甚だ疑問です。

 

 とするならば、この高校授業料完全無償化という制度設計は違憲性が高い立法と言わざるを得ません。

求められているもの、足りないもの

 

 安易な人気取りが専らの目的というのであれば前原氏の案にも一定の合理性はあるかもしれません。けれども、それは飽くまで「安易な人気取りで」という意味であって、中長期的に見れば、私立高校の運営が行き詰まり、最後には私立高校の教育現場が疲弊し、私立学校同士の統廃合が促進されると予想出来ます。

 少子化が深刻になっているのだから学校同士の統廃合って結果は変わらないでしょう、って反論もあるかもしれませんが、財政的に行き詰まったもの同士の合併なんて結局弥縫策にもなりませんし、それを促すというのなら、それこそ民業圧迫も甚だしいでしょう。

 

 あるいは、その地域に私立学校が所在することで地域ブランディングに一役買っている、あるいはその可能性がある場合もあるかもしれません。運動系の部活が強い学校が所在すると言うことでスポーツ振興が盛んになるかもしれない、という感じです。

 とするならば、益々前原氏の(済みません、前原さん、貴方に恨みはありません(汗))提案は不合理と言わざるを得ないでしょう。

 今、日本という社会は非常に大変な時だと思います。教育にいっちょ噛みの私共から見ていてもひしひしと感じます。

 だからこそ、安易な人気取りに終始するのではなく、「あっちが立てばこっちが立たず」が当然であるとしながらもあり得べき社会の全体像を考える、あるいは示すべきではないでしょうか。

 政治の世界でもビジネスの世界でも、勿論教育の世界でも、それが今の日本という社会に致命的に欠けているものだと思います。

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